黒夢



 届けられたニューシングル「NITE&DAY」と60本をゆうに越える97年のツアースケジュール。これに昨年の黒夢の活動を
つなぎ合わせると、どうしても今、これまでの軌跡を語ってもらわなければという気がした。そこで二人が重要視して展開してきたシングルを軸に話をと思ったのだが…そんなこちらの思惑すらも大きくずれるほど二人の意識は前に行っていた。シングルを通して見る清春と人時の歩み、そしてどのように考えを進化させ、どこへ向かおうとしているのかそのあたりを探ってみたい。



for dear / & Died TODT-3191

かなりシングルっぽいってことを意識した

●メジャー第一発目のシングルは「for dear」です。
清春:「for dear」はシングルデビューってことが決まって、シングルみたいな曲がないなってことを話していたところから始まったからね。アメリカで合宿に行って、僕と前のギターの子が部屋でジャジャンって感じで作ったのをスタジオでやったんだけど、とにかく、かなりシングルを意識した。これぐらいだよね、意識してシングルっぽいのを出したのは。
人時:うん。とにかく右も左も分からなかったからね。
清春:しかも、ディレクターも新人。今もやってくれている飯田(益三)さんなんだけど、黒夢が初めてで。でも、なかなか面白い奴で、これを聴かせた瞬間に「これだよシングルは」って感じで決まった。


だから、普通デビューの時ってシングル候補曲を何曲か作るものなんだけど、この1曲しか作らなかったから。まぁ、このころは曲を作るのが遅かったってのもあったんだけど。

●せっかくメジャーに行ったのに曲を作らなかったんですか。
清春:まだ三人だったんでバランスみたいなのがあって、作曲者の人時と前のギターと、お互いが遠慮し合ってて。なかなか難しい時期でした。

●三人とも曲が書けるアーティストだから、ライバル心が出るんですかね。
清春:う〜ん。なんだろうなぁ。僕としては、バンドだからボーカルが顔じゃないですか。そういう意識もあるし、インパクトも存在感もなくっちゃいけないと思っていて、それを人時は昔から分かってくれているんですよね。でも、前のギタリストはいまいち分かってなくて。彼はギタリストが目立った、昔のジャパメタ(ジャパニーズヘビーメタル)が好きで、その美意識があったんで、そこで合わなかった。

●サウンド面ではインディーズ時代の『亡骸を…』と比べてもレコーディングのクオリティーが全然違うじゃないですか。メジャーのクオリティーの違いって感じました?
清春:全然違いますよね。プロデュースも佐久間さんですから。最初、ドラムもいたんですけど、実は「for dear」でたたいてるのは(そうる)透さんなんです。

●じゃあ、デビューシングルが今後の黒夢を左右していく存在になるプロデューサーの佐久間さん、ドラマーのそうるさんとの出会いになったのですね。
清春:そう、透さんは今もずっとやってくれてるし、佐久間さんにしても3rdアルバムまでほとんど一緒でしたから。

●佐久間さんの存在は大きかったですか。
人時:僕は特に大きかったです。それまでは独学でベースを弾いてましたから、基本を教えてもらったし。
清春:僕は、歌入れの時にヘッドフォンを通したりすることや、歌う前は乳製品を口にしちゃいけないとか、そういう精神面やケアのアドバイスをもらって。ボーカリスト同士じゃないから細かい所はそんなにってのもあるんだけど、佐久間さんって無理せずにその時の状態を録るって感じだから。



ICE MY LIFE / S・A・D TODT-3191

全てを裏切るために冷たいキャラクターを作った


●2ndシングルの「ICE MY LIFE」なんですが、これは1stアルバム『迷える百合達』を挟んでリリースされて、その『迷える百合達』がオリコンチャート…
清春:3位。「ICE MY LIFE」が10位。
人時:「for dear」が18位だよね。

●ですね(笑)。いきなりよい評価が結果として現れたわけですけれど、これってどう受け止めたのでしょう。
清春:僕ね、デビューアルバムが3位だったんで、「なんだ、メジャーって大したことないじゃん」、「なんだこりゃ、3位なんて簡単じゃん」って思ってたのね。それで「次はシングルをベストテン内に入れなきゃ」ってことだったんだけど、「ICE MY LIFE」で10位に入ったでしょ。


「なんだ、ますます大したことないじゃん」って思っちゃって、ちょっといい気になった時期でしたね。ほら、今でこそロック系の人も簡単に10位内に入るけど、このころはあんまし入ってなくてね。自分たちの中でこれはいけるなって感触があったから。

●人時さんはどうだったんですか。
人時:当時は相変わらず、そういうことでは右も左も分からない状態でしたね。このころ…っていうか今もそうかもしれないけれど、(清春に)任せていた所がすごく大きいと思うから。「ICE MY LIFE」のころの僕の印象はプロモーションが大変だっていうのが強いかなぁ。なんでこんなに忙しいんだろうって。でも今になって思うと今の方が全然忙しいんだけどね。

●忙しさへの反動なんですかね。サウンド的には「for dear」を受け継いでいるのに、ジャケットのビジュアルも詞も冷たいイメージにいってるのは。
清春:いや、この時は自分たちのキャラクターを作りたいと思ってたの。髪の毛も切ったりしてね。ファンに対しても冷たいだとか、そういう感じ。「for dear」とか『迷える百合達』が”妖しい“ってイメージで、いわゆるビジュアル系だったとしたら、とにかく早くそこから抜け出したかったから。いろんなもの全部裏切るってことで”冷たい“って感じを出したかったんですよ。それで、このシングルが入ったミニアルバムも『Cruel』っていうタイトルで冷血だとか、冷酷っていう言葉にして。ファンの子にも嫌だったらついてくるなって感じだったから、チャレンジって言ったらチャレンジでしたね。

●ビジュアル系から抜け出るための冷たさ…。デビューから間もないのに、イメージを戦略的にコントロールしてたんですね。
人時:デビュー前から考えてたよね。
清春:うん。これね(ジャケットを手に取る)、髪の毛思いっきり切っているでしょ。「だれかが切ってから切った」じゃなくって、一番最初にって決めてたりしてね。この時期がビジュアル的には一番楽しかった。



優しい悲劇 / gossip TODT-3266

解散も考えたけど二人でできると開き直れた


●3作目は「優しい悲劇」になるのですが、この時期って精神的に一番ヘビーだったんじゃないかと。
清春:この時期はギターが辞め、でも活動は止めてはいけないっていう状況で。解散も考えたんですけどね、佐久間さんが「2人でやれば」なんて軽くアドバイスしてくれて、それでシングル発売にいたるわけです。「優しい悲劇」のギターソロだけ弾いてどっかに行っちゃたのね、ギターの人。

●二人のことですから「周りでゴチャゴチャ言うやつを黙らせる」じゃないですけど、「二人でもこれだけできるんだ」ってことを見せる意味でも結果を、言ってしまえば「売れた」っていう数字を残してやると意識してたんじゃないですか。


清春:しましたね。「売れる」っていうことよりも、絶対「ICE MY LIFE」の10位以下に落ちるわけにはいかないって。で、これが10位だったから、「なんだ、二人でも変わらないじゃん」って開き直っちゃいました。
人時:枚数は上がってたんだよね。ただ、出すタイミングを間違えた。

●それはどういうこと?
清春:この後に出す「Miss MOONLIGHT」の方を先にリリースするはずだったんですよ。でも、東芝(EMI)の人との間で「優しい悲劇」を先にって話になって。それが若干(じゃっかん)失敗だったなと。もう、昔の思い出だけど。

●(笑)どこが失敗だったのでしょう。
清春:「Miss MOONLIGHT」と「優しい悲劇」を比べると、「Miss MOONLIGHT」は一発のキャッチーさだけど、「優しい悲劇」は長いスタンスで浸透していく曲なんですよね。だから、時期的に「Miss MOON-LIGHT」を先に出したほうが良かったんじゃないかという。
人時:それと、「for dear」「ICE MY LIFE」「Miss MOONLIGHT」と同じ曲調で三部作っぽくしたかったんです。

●カップリングの「gossip」は、ベースと打ち込みとノイズが印象的な曲なんですが、これは二人でできるサウンドをやってやろうとかって意識はありましたか。
人時:当時はまだドラムが不特定で、(メンバーに)ドラムがいないから、何かをやるたびにだれにしようみたいな話になっていたころでね。そういうのもあって、打ち込みになったんじゃなかったかな。でも、大変な時期は大変な時期でしたよね。それでタイトルも「gossip」だし。
清春:そうそう。こういう時期ってうわさがすごいじゃないですか、「どうして辞めただとか」って。だから、歌詞にも「うわさをしている奴はいけないよ、そういう奴ってそのうち自分がされるんだよ」って感じを出したかった。そしたら、ファンの子は深読みして「優しい悲劇」が脱退の理由だって。大きな間違いだよ。



Miss MOONLIGHT / DANCE 2 GARNET TODT-3479

二人になって曲を作んなきゃと思い始めた


●「Miss MOONLIGHT」はさっきも話に出たように、楽曲的な一発のインパクトがあったんですけれど、この曲を作った時の二人はどういう感じだったんですか。
清春:「Miss MOONLIGHT」「優しい悲劇」の時は、前のギターが抜けたんで、僕も多少なりとも曲を作んなきゃって思っていたころなんです。それまでは、ストックから出していたって感じだったからね。

●じゃあ、この曲は新たに。
清春:辞めるとか辞めないとかっていう話をしていて、曲をどうするってなってたころに、作った曲です。

●当時「Miss MOONLIGHT」はインディーズレーベルから出したかったとか言ってたように記憶しているんですけど。


清春:あっ、そうですよね。そうでした。まあ、若きころのワガママというか(笑)。今はそんなこと思いませんけどね。どっちが先に出すかでもめて、「出してくんないんだったらインディーズで出す」とか思ってたんですよ。
人時:それでインディーズから出して、チャートの上位に入ってたらカッコいいねって言ってた。

●カップリングが「DANCE 2 GARNET」っていうのは。
清春:これは単純にインディーズで出した『亡骸を…』中の「DANCE 2 GARNET」に不満があってカップリングにしたんだよね。

●今の二人だとこれぐらいのものができるんだぞと。
清春:そう。で、サラッとやった気がしますね。だからTOY バージョン。音的にもおもちゃっぽいイメージで。



BEAMS / BABY GLAMOROUS TODT-3556

「BEAMS」までってプロデューサーが作る音楽だった


●念願のオリコン第1位を飾ったアルバム『feminism』を挟んで「BEAMS」です。この曲はCMで流れていたし、よくテレビから聴きました。
清春:タイアップは『feminism』が1位になって、企業の人がそういう話をいっぱい持ってくるような状況になっただけ。世の中そういうもので、売れてくると周りが寄ってくるっていう。でね、僕これでCMに出たじゃないですか、「あざやかに」ってフレーズと共に。そうすると「この曲でデビューしたの?」って言う人が多いの。やっぱり、『fem-inism』までっていうのはどうあがいても闇の存在というか、井の中の蛙なんですよ。ジェイロックマガジンでこんなことを言ったら怒られるかもしれないですけれど、しょせん、一般の人から見たロックってそんなもんなんです。一部の層だけに支持された隔離された世界でね。だから、このころの僕らは、一般層に自分たちをアピールすることで、ロックの良さっていうのを知ってもらおうと。


もう、パーマかけて日焼けして(笑)。サーファーみたいになっちゃった。すると、自分たちでも意外なことに、黒夢はファッション誌とかで、お洒落なアーティストって言われるような現象が起こってきて。逆にそれがイヤミにとられたりするんだけど、黒夢って一番早くやっているからカッコ悪くないじゃない? だからかな、僕たちって好きな人と嫌いな人がハッキリ分かれるのは。

●「BEAMS」はサウンド的にも新しいアプローチをされてますね。
清春:佐久間さんの手から離れて、プロデュースを西平彰さんっていう氷室(京介)さんとかを手掛けている人でやってもらったんだけど、音数も多く、ゴージャスな感じで。
人時:結果的に「BEAMS」はヒムロックなんだよね。音だとか方向性だとか。

●純粋に二人になった黒夢が歩き出したシングルでもありますよね。
清春:そう。『feminism』で1位を取って自信もついたし、迷わなくなったっていうか、二人でもやれるんだって思えた時期。だいたいバンドってさ、メンバーが辞めちゃったりすると人気が落ちるもんなんだけど、でも、黒夢は上がっているって中で「BEAMS」はハッキリ言って自信作でしたね。だけど、レコーディング作業的に不安はあったけどね。

●自信作のレコーディングで不安?
清春:若干、これは俺たちの音なのかなって。その横で作業はどんどん進んでいっちゃうし。まあ、でも、そう思うのも今だからで、当時はいい方向性を見つけたと思ったっていうのが強かったですね。ギターがいなくてもシーケンスでカバーできるんだと。

●打ち込みでカバーしつつも、さっき二人でって言っていたように、ベースとボーカルがズンと前に出てきた曲でもありますよね。
清春:そうですね。ボーカルとベースしかないんだから、ボーカルとベースを前に出そうっていうのが「BEAMS」から始まった『FAKE STAR』までの流れです。

●カップリングの「BABY GLAMOROUS」は佐久間さんプロデュースですよね。「BE-AMS」と「BABY GLAMOROUS」、この一枚を通して聴くと佐久間さんってバンド的なサウンドを引き出してくれる人だなと改めて思いました。
人時:佐久間さんは最小限の音で成り立つんだったらそれでいいって人で、西平さんはなるべく詰め込んで、そこから引く人だよね。でも、佐久間さんにしても、西平さんにしてもすごい。完成形が見えてやっているって感じがするもん。
清春:途中で、「こんな音なんているのかな」って思っているんですけど、でき上がってみると「やっぱりいるんだ」って納得させられる。その意味では「BEAMS」までってプロデューサーが作る音楽だったと思う、自分たちでも。二人、プラス、プロデューサーみたいな。それが嫌になって「SEE YOU」を作るわけですよ。



SEE YOU / COMICAL / KISS TODT-3657

つらかったけどなんとなく周りが見えるようになった


●完成形のイニシアティブがプロデューサーにあるのは嫌で「SEE YOU」をセルフプロデュースにしたと。
清春:ロックバンドとしてこのままじゃいけない気がしてね。

●その「SEE YOU」がタイアップも無しに売れましたよね。
清春:「BEAMS」が6位で「SEE YOU」が5位だったから。

●してやったりっていう感じでした?
清春:う〜ん。一週目が良かったっていうことでバンドのパワーは上がってきたなと思って。でも、二週目が寂しかったんでねぇ。ちょっとね。
人時:でも、意外に長く残っていたんだよね。

●「SEE YOU」は人時さんが初めてシングルを作曲した曲ですよね。初のシングル作曲で初のセルフプロデュースはどうでした?


人時:そういう、うれしさや曲調とは裏腹にこの時期はつらかったですねぇ(笑)。初のプロデュースということで結果的には自分で何もかも背負い込んじゃって…背負い込めるハズがないのに、背負い込もうとしていて。何もかも自分でやんなきゃって意識が強くなっちゃって思い詰めてた。でも、後々のいい勉強になりました。

●2曲目の「コミカル」はスカのリズムを取り入れた曲ですよね。以前にもロックファンやクロウトを、おっと思わせるリズムを打ち出したりしてたんですが、スカは一般の子たちもひっくるめておっと思わせたアレンジだと思うんです。これだけかけ離れたリズムを使っても、清春さんが歌えば黒夢のものになるってことで、今後の広がりへの自信につながったんじゃないですか。
清春:『feminism』から「白と黒」とか「眠れない日に見る時計」だとか、ロックバンドらしからぬ雰囲気の曲をやり始めて、今までの曲になかったリズムパターンをどんどんやろうという時だったのね。だから、こういうスカっぽいのもやろうと。これがあったから後のアルバム『FAKE STAR』の「REA-SON OF MYSELF」のレゲエみたいな感じにもいくんですけど。

●この曲は清春さんのゾクっとさせられる低めの声で、歌われる歌詞に想像力をかき立てられて印象的なんですけど。
清春:この曲って当時ファンの間でホモの歌だって思われがちだったりして。
人時:でも(歌詞を)読んだらそれっぽいよね。ちょうどその時にホモだとか「CO-MING OUT」だとかでレズだとかが話題になっていたから、余計にね。
清春:あと、ヴァージンの歌なんじゃないかとか。本当は、これはね、昔の黒夢の方が好きだったっていうファンの子に対しての答え。今が良ければいいじゃないって。心の中で今の方がイヤって思っているなら、ハッキリドロップアウトしなさいっていう。

●でも、そういう聴いている人がいろんな世界を想像して作っていけるっていうのは清春さんの書く歌詞の特徴ですよね。
清春:うん。詞も曲も、いろんなことを想像できた方が作品としてはすばらしいよね。

●3曲目の「KISS」なんですが『feminism』の「くちづけ」のバージョン違いで、アコースティックギターが響くきれいな曲ですよね。
清春:安全地帯風のね(笑)。この曲はシングルにしようと思ってたんですよ。『fem-inism』に入っている「くちづけ」がいまいち自分の中で気に入らなかったっていうのもあってシングルカットとして出そうと。それが、いつもスローな曲をシングルとして出そうとするとそうなんだけど、一回出そうと思うのに「いや違う」って気がして。

●「SEE YOU」と「COMICAL」でセルフプロデュースをされたんですが、先ほど言っていた、つらさを乗り越えてセルフプロデュースを達成させたってことは今後の活動でどういう存在になっていくのでしょう。
人時:ゆくゆくはやりたいと思っているんですけど、今はどっちにしたって全部を自分で弾いたり、たたいたりするわけじゃないから、演奏する人にファーストインスピレーションだとかは任せちゃえばいいんだなと。それが自分の思い描いていたのと違えばそこで、これは違うって言えばいいわけであって、最初から、ああしなさい、こうしなさいって言っちゃう感覚になってたから、まずそれは無駄なことだって発見して、楽になりましたね。
 あとね、このころからようやく、レコーディングの中でなんとなくだけど周りが見えるようになってきて。それまでは、レコーディングでも僕の中では曲と歌詞は別個の世界にあったんですが、それが寄ってきたと言うか、歌詞を気にするようになりましたね。そればかりじゃダメだと思うんだけど歌詞の中のヒントになる言葉であったり、イメージであったりっていうのを考えてくのもいいんだなって。でも、今回(現在レコーディング中)のアルバムはあんまり気にしてないですけれど(笑)。



ピストル / Walkin' on the edge TODT-3710

ここから悪モードが入ってくる


●次は「ピストル」です。
清春:これはアルバム『FAKE STAR』のリリースが控えてたんで、一度『FAKE STAR』と同じイメージでシングルを出したかったのね。だから、ジャケットデザインも統一した感じにして、どっちかというと先行シングルって感じ。後に出てくるアルバムが”FAKE STAR“(ニセモノのロックスター)ってことで、「ピストル」っていうタイトルの曲を出したかったってのが大きかったです。

●”FAKE STAR“って言葉は皮肉っぽくて間接的ですけど、「ピストル」って単語、メチャクチャ尖ってるし、いかにも悪そうで、感覚にストレートに訴えてきますもんね。
清春:そう。このころからちょっと悪モードに入ってくるんですよ。今までの曲がウソみたいに思えるくらいのね。
人時:チンピラみたいな。


清春:あと、是永(巧一)さんともう一度一緒にやりたくて。「BEAMS」の時に是永さんがギターを弾きにきてくれて、カッチョ良かったんで是永さんと共同プロデュースしようと。ほら、「SEE YOU」でセルフプロデュースをやって、でも今回は時間も無いし、逆に、まるっきり任せるんじゃなくって共同ならどうなんだろうと。そしたら、結構充実した仕事ができた気がするね。
人時:うん、できた。ミュージシャン同士、同じ立場でしゃべってね。

●カップリングの「Walkin' on the edge」ですけれど、これは僕個人的に特に好きな曲で。大人びたリズムと予想できない展開と詞、すべてがハマッてるような。
清春:曲もそうなんだけど、歌詞的にすごい気に入っていて、当時、今まで書いた歌詞の中でベストだって思ってたぐらいの詞だった。これでヒントを得て「FAKE STAR」を作ったっていうのもあるし、この曲は気に入ってますね。ライブでもしょっちゅうやっているし、ファンの子もこれを聴いて「ウォー」って思ってくれているみたいだし。
人時:カップリングにはもったいないぐらいだよね。

●作曲者の人時さんにはどういう存在の曲なのですか。
人時:「ピストル」が急にリリースするって決まったでしょ。カップリングはインディーズ時代のとか、前やっていた時の曲を焼き直してもいいよって言われて。でも、「曲ができない」って思われるのは嫌だなって考えてたんで作ってみることにしたんだけど、やってみるとあっという間にでき上がった。そんなに手は掛かってないんだけど、こういう「あっという間にできるものの方がいいんだな」って思うようになった曲ですね。悩んで、悩んでできましたっていう曲よりも、サラッとできた方が、気分も当然いいし、単純に「いいな」って思える曲になっているんですよ。それに、「Walkin' on the edge」は歌詞がついてすごくいいなって。だから僕も気に入っています。



Like A Angel / Suck me ! TODT-3851

戦略なんてどうでもいいって思えた詞


●そして「Like A Angel」です。
清春:これはね「ピストル」と『FAKE ST-AR』を出してツアーを回って。気持ちがわりと尖った方にいってた。でもシングルだしってことで、その微妙なラインの曲。頭の所なんか「ダダダッ、ダダダッ」ってパンクなんかにありがちなんだけど、曲に入って行くとメロディックっていうね。最初は「NITE & DAY」を出そうかと思ったんですよ。でも気持ちがハードだったんで、ハードな曲でいこうと。これはもう、曲とか歌詞とかアレンジとか、今までのシングルの中でもかなり気に入っているんですけど。この曲はもう、周りの状況が整ってないのに出ちゃって。

●周りの状況って?
人時:なんか知らない間に発売されちゃったんだよね。
清春:宣伝もなく。横に東芝の担当者がいるけど、あえて言いましょう、「FUCKIN’東芝」って感じ。
人時:ハハハハハハ。



●出したい時期が別にあったんですか。
清春:違う、違う。時期は早く出したかったからいいんだけど、出すならもっとしっかりしてくれよって。
人時:プロモーションとかしっかりとしてね。
清春:このことで「東芝を辞める」って思ってましたもん。もう、これは絶対載せてほしいですね。

●ワハハハハ。でも、いいんですか。
清春:いいんです。Jロックを読んでる人たちってよく分かってなくて読者のコーナーに「最近のロックは…」だとかって文句を書いてくるじゃないですか。でも、実際にやっているといろいろ、大人のからくりというやつがあるんですよね。その中でいかに正直にやっているかっていうのが黒夢だから。正直なこの気持ちは載せておいてください。

●分かりました。
清春:でも、まあ、結果的に「Like A Angel」は長い間チャートに残っていて、男の子が多く聴いてくれたりしてね。詞が男の子に受けたのがうれしかった。人時くんをはじめ、周りの男連中も”いい“って言ってくれてね。
人時:今だに好きですね。僕自身もすごく助かったし。僕の転機っていうかさ、精神的な転機を迎えるキッカケができた曲でもあるので。

●その精神的な転機っていうのは。
人時:いろいろ、精神的にぐちゃぐちゃになってて。何を思い詰めているのか分からないくらい思い詰めてて、それが「Like A Angel」ができてから、考える余裕ができたっていうか、楽になれた。そのキッカケになった曲だから、今だに思い入れはありますね。今までの曲たちってかわいいって思ったりするんだけど、この曲だけはかわいいじゃなくて感謝って感じなんですよ。
清春:僕にとっても、初心に帰るっていう感じになった曲で、この「Like A Angel」から、急に戦略家っていう部分で「もう、そんなものはいらない」って思い始めた曲なんで、出せたことがよかった。僕たちチャートとか(の上位)を取っていて、それでもあえて言うんですけど、「チャートなんかどうでもいいや」っていうかファンの子や僕たちの曲を聴いてくれる、リスナーの子が共感できるものを提供できる、それでいいじゃんって考え始めて、大事な曲っていうより大事な詞って感じ。

●清春さん自身、戦略家として売れることを考えてきて、実際にそういう発言をされてたじゃないですか。そういうのも、どうでもよくなったっていうと、すごい…。
清春:どっちかっていうと、『FAKE STAR』までって、音楽とかじゃなくて、黒夢を売るための全体的なプロデュースっていう感覚はあったんだけど、自分の中でロックミュージシャンとかロックボーカリストだとか、ロッカーっていう言葉がすごいカッコイイ言葉に思えてきて。

●ロックボーカリストのカッコよさって興味があります。
清春:例えば僕はだいぶ前からファッション雑誌とかに出てきたわけだけど、そういう時にも変にロッカーがファッション誌に媚(こ)びて出るのが嫌だなあって思い始めて。海外だったらロックミュージシャンが先頭を切ってるじゃない。それで文化やファッションを作っている。それで、いいじゃんって。そういうことでもロッカーっていう意識がどんどん強くなって、周りのことばかり考えるのがいやだなあって思っていた時に、周りを見たら日和(ひよ)った(周りに影響されてふらついた)バンドが売れているっていう状況だったから、僕らは違うさって。その結果、男の子のファンが増え始めたし、このころを境に僕らってすごくいい傾向になったよね。

●それは年末のライブで体感させられました。驚くほど男の子が多かったりして。
清春:そう。で、今だから言っちゃうけど、実は、黒夢ってデビューしてから短期間でピークに上り詰めてパッて解散しちゃおうと思ってたわけですよ。でも、それって違うなって、思っちゃって。やり続けることがロックだとは思わないけれど、好きなことをどれだけ長い時間やってられるかってことだと初めて思った。だから初心に帰る。チョー初心に帰る。バンドを始めたころに。

●このカップリング曲の「Suck me !」もそんなロックのにおいがプンプンしている曲ですね。これは「FAKE STAR'S CIRCUIT」ツアーの中盤以降からお目見えしてたんでしたっけ?
清春:出てきたね。パンキッシュな、8ビートの曲。僕らの曲って速いか遅いかっていう両極端だったから。
人時:手の込んだことばっかりやっていたからね。
清春:簡単な曲でノリのある曲。ツアー中、楽屋では常にラジカセからパンクな曲が流れていて、そういうのが好きになっててね。僕たちの中でもどんどん簡単でノリのある、パンクな感じになっていくんです。

●これからツアーに入っていくわけですけれど、「Like A Angel」「Suck me !」は今後もお二人にとってもツアーにとっても重要な存在の曲になりそうですね。
清春:そうですね。もうみんなもそうなんじゃない。それに、うちっていつもカップリングって重要だから。シングル曲を外しても、カップリング曲を外さなかったりするから。

●ハハハハハ。それで、その大事な曲がアルバムに入ってないのが黒夢なんですよね。
人時:絶対に入ってないね。焼き回しは別にしてね(笑)。
清春:だって、かわいそうだよ。買う人、嫌じゃない? 僕だったら絶対に買わないもん、シングル3曲、そのカップリング3曲で新曲が4曲っていうアルバムは。それはアルバムじゃなくて、「ベスト」プラス「企画もん」って感じがしちゃって。だから黒夢はシングルも録り直したりしているし。あくまでアルバムが出た時の新作っていうニュアンスは大切にしている。

バンドはライブとアルバムシングルは餌


●これで過去のものは終わったんですけれど、ここで一度、二人にとってのシングルとはどういう存在なのかをうかがいたいんですが。
清春:どうしても、アルバムより先に作るから、転機だとか柱に見られるけど、今は昔ほど重要じゃないよ。今はすっごいアルバムのほうが重要。さっきも言ったように戦略なんてどうでもよくなっちゃったらそうなったね。これまで戦略を考えたり、シングルを重要視してたから言えるんだけど、今は「やっぱし、バンドはアルバムとツアーでしょ」って気持ち。で、「チャートよりも内容でしょう」と。だから、もうすぐ出すアルバムって、東芝の人は三作連続1位っていうのを期待しているんだろうけど、もういいもんね。2位だろうが、3位だろうが、5位だろうが、100位だろうが。内容がよければ。それよりもカッコいいアルバムを作って聴いてくれた人が前よりもいいって言ってくれる方がいいじゃない。みんな1位を取りたいから、もしくはもっと客が入るライブがやりたいからって、売れていくとだんだんポップになっていくじゃない? でも、黒夢ってデビューの時一瞬、日和っちゃったけれどもさらにどんどん尖っていってるから、今は『FAKE STAR』よりも尖ったアルバムをってことでやってて、レコーディングしていてもシングルよりもアルバムかなって思ってます。もう、シングルは名刺って感じだもんね。名刺っていうか、いかにアルバムを聴いてもらえるかってための餌っていうか。シングルがバーンと売れて、アルバムが売れないよりも、まあ、売れなくてもいいですけれど、いいアルバムができればいいってことかな。だから、今の「NITE&DAY」に対する思いもだいぶ変わりましたね。
人時:そう、それでシングルのベスト盤は出されたくないよね。
清春:そんなの出すってことになったらすぐ辞める、東芝を。

●ハハハハ。じゃあ、シングルベスト盤が出てもお二人の意志じゃないってことがファンの子に分かるようにここはカットせずに載せておきます。
清春:ええ。でも辞めたら辞めたで出されるんですよね(笑)。

●原盤は東芝が持っているんですね。
清春:大人の仕組みが分かっちゃう(笑)。でも、東芝得意だから、ビートルズみたいに。
人時:ハハハハ、バージョン違いとか。
清春:マスタリング違いとか選曲違いとかね。

●そこまで言っても…いいですよね、大人の仕組みの中で正直な黒夢ですから(笑)。



NITE & DAY /
SICK 1997 BURST VERSION TODT-3941

より二人という意識が強くなっている


●じゃあ、最新作「NITE & DAY」の話を。これはアコースティックギターを人時さんが弾いている。
人時:ハイ。
清春:この9枚目のシングル以降、次のシングルそしてアルバムとリリースするんですけれど、人時くんがほとんど全部と言っていいくらいギターを弾いています。彼がベースとギターを弾くことで、より二人っていう気持ちになって。あと、佐藤信彦さんと共同アレンジってことでやっているんですけど、佐藤さんってギタリストなのにギターも弾かなければ、ああしろ、こうしろとも言わないし、分かんないことがあったら聞くって感じなのね。だから本当に自由になっています。

●人時さんがギターを弾こうと思ったのはどういう。
人時:周りにノセられて(笑)。
清春:僕がすすめたんですよ。


人時:『FAKE STAR』の入っている「SEE YOU」でもギターを弾いていますし、その前に「DANCE 2 GARNET」のTOYバージョンでもワンチャンネルだけは僕が弾いてたり、なんだかんだってやってるんですよ。もともと始めたのはギターだったっていうのもあって、ギターもやりたいっていうのは願望としてあるんですね。今回は、言われる前からカップリングは弾くつもりでいたんですけれど、「NITE & DAY」で、しかもアコギを弾くと思わなかったんで、ビックリはしました。でもまあ、これぐらいしかできないよって感じで思いっ切り弾いてますね。

●清春さんがすすめたっていうのは。
清春:トークライブでは二人で座ってアコースティックライブをやってたりしてたのもあるんだけど、単純にファンの子がCDを聴いた時にメンバーじゃない人のギターが入っているよりも、完ぺきじゃなくてもメンバーの弾いたギターの方がいいんじゃないかってことなんです。その方が黒夢のCDらしいっていうか。本当は僕が弾ければいいんですけれど、弾けないんでね。
人時:二人でやれるものは全部やっておいた方がいいかなって感じです。
清春:ドラムは透さんがずっとやるって言ってくれてるし、そうしてもらおうってことで、それ以外のできることをやろうと。

●さっき、「Like A Angel」のタイミングで「NITE & DAY」をって言ってたように一度レコーディングしたそうなんですが、詞が綺麗なラブソングなんで、その時はそれにハマッたような感じだったんですか。
清春:うん、なめらかな感じだったね。だからもうちょっと、デコボコしててもいいんじゃないかって。悪く言ってしまえば、ヘタでもいいじゃんってぐらいに。この曲の始めのコンセプトはパンクバンドをやっている少年が、パンクしかできない、ツーコードとかスリーコードしか抑えられない少年が、好きな女の子が初めてできて、アコースティックギターを練習してその子の前で歌ってあげるって感じなのね。だから、有線とかテレビから流れてくる時の音とか、もっと言えばスピーカーから流れてくる時の音なんてどうでもよくって、まずそこに居て弾いているって感じを出したかった。それが「NITE &DAY」。

●ギターがザックリと力強くて、横で弾いてくれている臨場感とか、今言われた伝えたい気持ちとかが伝わってくるような。
人時:よく言えばですけどね(笑)。

●そんな(笑)。それで、この曲調なんですけど、最近の黒夢の活動から、正直いって、このタイミングのシングルも尖った感じの曲かなって思っていたんですね。でも、届いた「NITE & DAY」は違っていて、いつもならここでやられたって感覚で聴いちゃうんですけど、大阪城ホールのアンコールで「至上のゆりかご」を聴いた時の激しいだけがロックじゃないって実感した、あの時の空気とだぶって、すっと体に入ってきました。
清春:そう、ほんと、その通りなんですよ。今回カップリングに「SICK 1997 BURST VERSION」っていう、激しいのが入っているじゃないですか。でもね、気持ちは同じなんですよ。出す音の種類だとか曲の種類が違うだけで、そういうザラザラした気持ちでやっているんですよね。前に録った音みたいに、シングルっぽくしようと思ったらもっとできたし、売れようと思ったらそのためのアレンジってあったと思うんですよね。でも、なんかヤだなあって。本当はライブをそのままパッケージしたいんですよ。今、Jロックに載っているロックバンドでも、わりと音の仕上がりとしてグローブとかと同じぐらいに聴けるじゃないですか。それがつまんないんですよね。
 例えば、今の日本のチャート上位をしめる曲のメロディーテープを作ったとして、その中に、クラッシュだとか(セックス)ピストルズだとかをポンと入れたとしたら、彼らってうまくないし、「あら?」って思うじゃないですか。でも「何かロックだ」みたいな存在感があるんだよね、そんな感覚。別にヘタさウマさじゃなくって、そのままの自分たちをやって、それがいいじゃんって。

●ライブをそのままパッケージしたような感じは伝わってきますよ。だから「NITE &  DAY」「SICK 1997 BURST VERSION」を聴いていると控えているライブまで心が飛んじゃって(笑)。
清春:ライブね、10月まで64本で、これにイベントが入るかもしれないから約70本。一年を通して90本ぐらいできればいいかなと思っているんですけど、こんなことをしてしまうバンドはいないでしょう。しかも、ライブハウスもやります。大きい所も小さい所も普通の所もやるって言ったんでやるんですけど、年々ライブが増えていって、好きなことをできるこういう状況がいいよね。 よくいるじゃないですか、売れているから好きなことができなくなっちゃう人たちって。そうじゃなくて、「いかに好きなことを何年やってられるか」っていうのが、僕らが今まで売れたいと思ってやってきたことの結果だから。「売れたい」だとか言ってた時って、ファンの子が「なぜ?」って思ってたと思うんだけど、その答えがこれだから、ツアーではそれを見せてあげられます。僕たちは量が多いだけじゃなくって質もいいですから。
 でも、年間90本かぁ、これよりも一本でも少ない人たちには、僕たちの前ではライブバンドだって言ってほしくないよね。
人時:うん、そうだね。それに大きい所も小さい所も普通に、ライブをお祭りにだけはしたくないね。

●楽しみですね。ライブともう一つ重要になってくるアルバムなんですけど、この「NITE & DAY」が餌になっているアルバムっていうと内容をかなり期待しているんですけど順調に進んでいますか。
清春:僕は後、歌を若干直すくらいですね。今回歌入れムッチャ早いですよ。曲によっては、ほんと、1、2テイクしか録ってないものもあって、一日で2、3曲歌ったっていう日もあるくらい。もう、半分以上の曲はハンドマイクで録ってたからすぐ、スタジオでガーッって動いて。
人時:昨日、できてるって聞いてびっくりしちゃった。今までこの時点で全曲歌っているってことないもんね。僕は昨日ギターを録り終わったんだけど、清さんのことを聞いて、今朝やってきました。

●アルバムのにおいは「NITE & DAY」とこの会話があれば具体的なヒントなんて言うより、ファンに伝わると思います。
清春:次のアルバムはタイトルからして売れませんからね。売れないっていうか、一般の人は「マジ!?」ってなる。
人時:気にはなるけど、「なんじゃ〜これ」って。
清春:でも、ファンが驚けばいいんです。