氷室京介





 先月号に引き続き、氷室京介のインタビューをお届けする。最新アルバム『I・DE・A』はオリコンチャート1位を記録し、すでに多くの人に聴かれていることと思うが、今回は『I・DE・A』収録曲の話はもちろんのこと、なぜ活動拠点をアメリカに置いているのか、今年ソロ活動10年を迎える彼の今後への決意、そして待たれるライブについてを聞いてみた。彼のひと言ひと言から、そこに込められた力強い意思を感じてほしい。


●今回のアルバムでは”音楽を楽しむ“気持ちを取り戻したという氷室さんのボーカルがすごくワイルドになったと思いました。特に「RE-BORN」「LOST WEEKEND」「NO MORE FICTION」では自由に歌っている氷室さんがいますよね。
氷室京介(以下氷室):手法的にも結構いろいろね、オクターブ下から歌い始めるとか、そういうこともあるし、だから感触はちょっと違うかもしれないね。今までの氷室京介の歌をよく知っている人は「えっ、こんな歌い方もするのか」って感じるかもしんない。


●本能で歌っている印象があったんですよ。
氷室:そう、俺、本能的に歌ってるよ。考えてそうしようと作為的にはやってないよね。自然に歌う方がカッコいいなと思って、その次の瞬間にはもうやっている感じなんで。
●今までもそうでした?
氷室:今まではやっぱ考えてやってたな、もっと。なんかコンピューター的な視点からっていうかさ、「こういうオケのこの波長にはこういう歌い方が合う」とか「合わない」とか、「歌は何クロック分前の方がカッコいい」とか。
●実際、今回の歌録りはどうでしたか。
氷室:歌録りはいつもより全然早かったし、楽しかった。あんまり覚えてないくらい(笑)。あと、歌詞でもそうかもしれないね。「DISTANCE」とか「NO MORE FICTION」とか、その辺りは後半になって自分が書きたいなっていう衝動にかられて書いてるんで。
●「NO MORE FICTION」は、思ったままをぶつけているという感じで迫ってきますよね。
氷室:すごいですよ、過激ですよ(笑)。「久々に書いてくれたな」って感じでしょ? ファンの人は多分うれしいと思いますよ。「これだよな」って感じでしょう(笑)。
●まさにハダカの心で叫んでいる(笑)。
氷室:「ばっかやろう、ざまあ見ろ」って感じでしょう、ねえ(笑)。
●そういう自分の本能を出して歌えたところで、ボーカリストとしての新たな発見があったのではないかと。
氷室:それ順序が逆だと思うよ。自分のボーカリストとしての発見があったから多分アクションを起こしてるんだと思う。今までは詞を書くんだったらメッセージ性が強いものじゃないとイヤだなって必要以上に真面目になってたところがあるのね。でも、 ”自分の中に自然にわき出てくるエモーショナルな部分を歌にできるから俺は歌手なんだ“っていうところで今回は書いてんだよね。
●「FLOWER DIMENSION」なんですけど、これはすごく世界観のある詞で、氷室さんの思想がうかがえるような…。最初の”翼のない蝶より ただの風のほうがいい どうにも動けない 大きな樹でいたくない“のところにずっと持っている氷室さんの思いが現れているなって。
氷室:昔から縛られるのはイヤなんだよね。何か形のあるものに取り込まれるのもイヤだし、「いつも自由でいたい」っていうか「気まぐれでいたい」っていうか。


●また、バラードナンバーの「堕天使」なんですけど、すごく温かくて優しさにあふれてるんですよね。前作『MISS-ING PIECE』収録のバラードナンバー「WALTS」を聴いたときは、切なくて涙が出そうなくらいだったんですが、「堕天使」はそういうのを取り払った中での”愛“を感じさせられたんです。
氷室:「堕天使」は俺の中では結構ラブソングとして響いてるんだよね。いい詞だよね。松本(隆)さんに詞をお願いすると、曲が歌になって返ってくることが多いよね。何作も作っていると曲が曲のまま、ただ言葉が乗って仕上がっちゃうものもあるわけですよ。でも、松本さんの詞は自分が書いたメロディーが歌になって返ってくるんだよね。だから松本さんとはじっくり時間をかけて話でもしながら、アルバム1枚通して作ったりとかしてみたい、いつかね。すごく尊敬できる作詞家だし、俺は好きです。
●この「堕天使」には、その詞を含む全体的な流れの中に”純粋な愛“を受け取った感触があったんですね。ここで抽象的な質問なんですが、氷室さんにとって”愛“ってどういうものですか。


氷室:それは俺もよく考えるけど、分からないなぁ。
”愛“って何なんですかね。
●私はむやみに与えるものでもなくて、もらうものでもないと思うんです。それに、愛って必死にならなくても、ふとしたところにあふれているような気がするんですよね。
氷室:ただ、どっかの宗教じゃないですけど、無償な、相手に見返りを望まないで何かをしてあげたいって気持ちがもしあったとしたら、それは結構愛に近い感覚かもしれないね。例えば、自分の子供に対しては無償じゃない? それはやっぱり愛だよね。種類に分けてみたらね。
●「これは愛なんだ」って提示するものじゃなくて。
氷室:そう。何かをやることによって相手が自分にマテリアルをくれたら、それはもう愛ではないよね。それはビジネスとかギブ&テイクとかの世界になっちゃうよね。そうではなくて、その相手が「これをやったらきっと喜んでくれるだろうな」とか相手が喜ぶ顔を見て自分がうれしくなる。それは純粋に愛だよね、多分ね。
●あと「HEAT」なんですけど、この曲はBOO/WYを思わせるビート感たっぷりのナンバーですよね。このような曲を聴くとBOO/WYの存在のすごさを改めて実感させられるんです。BOO/WYというジャンルを確立したことでのすごさとともに、氷室さんがソロになってもやり続けることによって色あせることのないリアル感が、この「HEAT」にはあると思いました。
氷室:確かに、そう感じる人は多いかもしれないよ。今回のアルバムはギターのビート感がバンド時代に近いのかな? 多分そうだと思うよ。何の楽器をメインに置くかっていうのがやっぱギターをスティーブ・スティーブンスがやってるってとこでさ、キーボードがメインになったりしている曲は全然ないし、ドラムはそれなりにワンパク坊主だったんで暴れてるけど、でもギターのインパクトがやっぱ強いからね。で、BOO/WYっていうのは(サウンド的に)3ピースでギターがメインになってたから、それでBOO/WYの感じが強いのかもしれないね。
●この曲を歌ってるときに、そのときの感覚に戻ったりしました?
氷室:すごい戻った。それは正直言ってすごい戻ったよ。自然に歌えるってのはそういうことなんだよ、きっと。そうそう。
●だって最初はそうだったんですもんね。
氷室:そう。BOO/WYは特殊なバンドで、特殊なビート感だったんだよ。で、スティーブはすごくタイトなんだけどクリックに対して…、こんなテクニカルなこと言ってもつまんないと思うけど、ドンカマに対して前のめりじゃないんだけど、前のめりに聴かせることができるギタリストなんだよ。そのオケの中で俺はすっごい歌いやすいんだよね。

●ところで、今回のアルバムのタイトルなんですけど、
” I・DE・A(イデア)“っていうことで、これはギリシャ語なんですが…。
氷室:ギリシャ語なんですか? ラテン語かギリシャ語か何かだとは言ってたんですけど(笑)。でね、これをアメリカ人に聞くと「 ”イデア“っていう読み方はしないよ」ってほとんどの人が口をそろえて言うんですよ。で、「これは”アイデア“でしょ?」って(笑)。「アイデアじゃなくてイデアなんだよ」って言っても「そんな言葉聞いたことねえなあ」なんて言われちゃう。でも辞書には載っているからね。
●そうですよね。また”イデア“っていうのは”想念“という哲学的な意味もありますよね。
氷室:そう。”純粋理性概念“って書いてあるよね、辞書を引くとね。要は”究極の理想の形“というか”究極の完成形“ ”完璧な形“っていう意味だよね。だから”氷室京
介“っていう音楽の概念があるとして、それを自分で語るならば「このアルバムです」という、そういう意味で
”I・DE・A“というタイトルにしたんだけどね。
●このタイトルはすぐに決まったんですか。
氷室:うん。タイトルは結構すぐに決まったよ。「RE-BORN」ってのもありかなとは思ったけどね。その方が分かりやすいしね。でも 、”I・DE・A“というタイトルはもう何年も前から使いたいなって思ってて。ただ使いたいと思いながらもそれだけの完成度が自分の中でこれまでのアルバムには見えてなかったんだろうね。今回のアルバムにはつけてもいいなと思ったんで。
●”究極の理想の形“という意味の”イデア“をタイトルにした今回のアルバムは、氷室さんがアメリカに在住しているからこそできた作品だと思いますか。
氷室:いや、日本に住んでても多分スティーブとのコラボレーションがあれば同じようなものができたと思うけどね。ただ、スティーブとあそこまでタイトにやろうとしても日本にいるとどうしてもできないよ。日本にいるとやっぱり氷室京介っていうアーティストが動くときに周り中が”スター様“みたいな感じでプロテクトしてくれるじゃない? だから”ただのお兄ちゃん“みたいな感じでは人と付き合うのは難しい。そういう意味でスティーブは外国に住んでいるし、氷室京介なんて名前も多分知らなかったと思うしね。だから自然にできたのはあるよね。自宅からスティーブの家にテープを持って遊びに行って、自然にやりとりしてっていうところが楽だったよ。
●でも、アメリカを選んだ理由はそれだけでしょうか。
氷室:ヨーロッパでもよかったんじゃないですかってこと?
●そう感じたのも確かにあるんですが、今回のアルバムを聴いて氷室さんとアメリカがすごく合っていると思ったので。
氷室:アメリカ人の気質も俺には合ってるかもしんない。なんかすごく資本主義がキチっと表に目に見えてる国だから、そういう意味では人と付き合うのがストレートで分かりやすいよね。ヨーロッパの人は結構日本人に近いところがあって、口ではなんか「いやあ、あなたのことが…」と言いながら全然違うことを考えてる的なノリがあるけど、アメリカ人の方がもうちょっとストレートかもしんないね。もちろんアメリカ人でも裏はあると思うよ(笑)。裏はあるけどお金をもらったらそれなりのプロの仕事をやるっていうか、実力がある人が多い。お金をもらいながらプロの仕事ができない連中がヨーロッパにも日本にもいっぱいいるしね。もちろんアメリカにもいるだろうけど、俺がたまたま知り合ったアメリカ人はみんな実力があるよ。ニール・ドーフスマン(歴史に残る数々の名盤のエンジニア&プロデューサーとして世界的に知られるレコーディング・エンジニア。氷室との最初の出会いは、4thアルバム『Memories of Blue』のTD〈トラックダウン〉を手掛けてから。その後、6thアルバム『MISSING PIECE』、今作『I・DE・A』ではレコーディング・エンジニアとして参加している)にしてもスティーブ・スティーブンスにしてもね。もちろんグラミー賞を取るような人達だから当たり前っちゃ当たり前だけど、みんなすごいプロだよ。でも、なんかプロ面しててさ、名前は有名だけど、呼んでみて「何だ、こいつ?」っていうの結構あるもん、正直言って。会って目が点になっちゃって…っていうのあるもん。それに比べるとね。
●では、今までいろんな外国のミュージシャンにアプローチを?
氷室:うん。結構。今もね、ジェフ・ボヴァ(セリーヌ・ディオンなどのプロデュースを手掛け、96年グラミー賞プロデューサー賞を受賞)って人と実はやってんですよ。多分98年の2月とか3月とかにシングルで、その曲が出せればいいなと思ってやってるんですけど、その人も結構いいですよ。
●氷室さんはアメリカ永住権(グリーンカード)を取られたんですよね。
氷室:取ってないよ。永住権は、まだ取ってない。ワーキングビザ。まあ、似たようなものだけどね。
●今後はずっとアメリカに?
氷室:いやいや、そんなことはないよ。たまたま作業がここんとこ立て続けにきてるんでアメリカにずっといるけど、俺は別に日本が嫌いとかじゃないし、日本に帰ってくると、今はもう(アメリカに)帰るのが面倒でヤダもん
(笑)。でも、だからと言ってここ(日本)にステイしちゃうと自分がやりたかった…、今さ、ある程度の成功を俺は手に入れてるわけよ。で、今みたいなことをダラダラ日本でやってればそれなりに、どっかのハゲのカツラをかぶっているバンドのように売れ続けていくだろうしっていうのが見えるわけ。でも、なんか今俺がやらなきゃいけないことって多分違うんだよね。で、自分にちょっとムチを入れて向こうに帰ろうかなってのはあるけど。だから、帰ってまた仕事をやって、で、仕事が終わればいつでもっていうか、もちろん戻ってきたいよ。
●釣りをするために琵琶湖にもですか(笑)。
氷室:琵琶湖に、そうそう(笑)。
●私は氷室さんが日本というか、日本の音楽には全然興味がないのかなと思いつつですね…。
氷室:全然そういうわけじゃないよ。日本のバンドもカッコいいものはカッコいいよね。で、カッコ悪いものは相変わらずカッコ悪い。でも、以前はちょっと意固地になって、カッコ良いものがよく見えなかった時期があったんだけど、外国の音楽を今までよりも肌で感じるようになって一年間向こうにいて帰ってきて思ったのは、いい音楽はいっぱいあるなと。UAって言うんだっけ? あいつなんてめちゃめちゃカッコ良かったよ。まだテレビで1曲しか聴いてないんだけど。そういう連中が日本にはまだまだたくさんいるでしょ、きっと。だから、日本のレコードもキチっと聴かなきゃいけないなと思いましたよ、帰ってきて。
●アメリカで生活していて音楽以外の魅力っていうのは何ですか。
氷室:さっき言った話とだぶっちゃうけどアメリカにいると自然体でいられるのよ。氷室京介としてじゃなくて37歳の一人の男として、自分がやらなきゃいけないことを生活の中で自分でやれるし、それが自然にできる。日本にいるとやっぱり人の目がどうしても気になっちゃったりするからね。まあ、一時期に比べれば全然いいけど。それでもやっぱりね、表に出るときは一応気付かれたらみっともなくない格好をするか、絶対に気付かれないくらい汚い格好をするかのどっちかなわけじゃん。いちいち考えないと行動できないからね。
●そういうアメリカでの生活が長くなり、外国のミュージシャンと一緒にやっている中で将来的に海外進出っていうことも考えたり?
氷室:夢の一つとしてはもちろんありますよ。それもヨーロッパじゃなくてアメリカでね。MTVで自分の作ったクリップが流れるっていうのはカッコいいですよね。それは魅力的だね。

●氷室さんは98年でソロ活動10年を迎えるわけですが、何か心境の変化みたいなものはありますか。
氷室:10年を迎えるからと言って別にない。ただ、10年を迎える、10年目を前にしてすっきりした気分になれて良かったとはすごく思ってるよ。それはスタッフのお陰でもあるよね。いくらレコードを向こうで作りたいとか、向こうでブレーンを増やしたいんだって自分の夢を語っても、それを理解してくれないスタッフばかりの中でやっているヤツも俺の友達でいるわけ。実際に行きたいんだけど行けない、そういう連中に比べれば俺はすごい恵まれているし、行ったお陰で俺は抜け出せたから、すごく感謝してるしね。
●迷いなく10年目を迎えられる、その大きな節目に今氷室さんは立っているんですよね。
氷室:うん、来てるよね。
●お話を聞いていると、”今から“という感じもしますよね。
氷室:そうだね。こっから加速すると思うよ、自分でも。そりゃあそうだよ、だって迷いがないんだもん。やりたいことがいっぱいあるからさ。で、言葉で語らずに「あっ、これが氷室がやりたかったことなのか」っていうのが3年以内に日本の人達に見えるようにしようと思ってるから。それは決して日本の…、外国のことを知らない人達の目にダサく映ることはないハズだから。日本の文化が自分がやっている音楽で少しでも、何て言うのかな…、決して低いとか高いとかじゃないけどさ、もっともっと日本の文化が誇れるものになったら、俺はカルチャーの中で生きてる人間としてうれしいからさ。そうなっていけるように頑張っていきたいと思う。
●ところで、スティーブさんとは今後も一緒にやっていこうと思っていますか。
氷室:うん、多分。ただ彼が全権を握ってというか、サウンドプロデュースみたいなアレンジを全部してっていう関わり方ではないと思うけど。ま、そういう曲ももちろんありの、もっとやっぱワイドなことをやりたいよね。この10年間で変わってきてる自分の音楽観とかをいろんな人達とフレキシブルに表現していくっていうか、そういうこともやりたいよね。
●そこで気になるのがライブなんです。このアルバムを聴いてライブが観たくてしょうがなくなったんですけど、ライブについてはどのように考えていますか。
氷室:ライブはね、ホントだったらすぐにやりたいのよ。やりたいんだけど、なかなか…、俺がやりたいスタッフとかメンツがあって、その人達とのいろんな段取りを考えると98年の6月以降だね。
●そうなんですか。
氷室:そう。早くて7月。遅ければ8月、9月になるんじゃないかな。それはもう仕方がないよね。
●今ライブは自分の中でどういう存在ですか。
氷室:いい意味で完成度の高いことをやりつつ、音楽をやることで自分の中にたまっていく…、レコーディングっていうのはやっぱり内に向かった作業だから、それを開放させる…、ライブに向かってテンションを上げていくようなことをずっと俺はやってきたわけじゃない? で、それって大事なポイントだと思うのね。ライブではもちろんお客さんを楽しませなきゃいけないけど、自分の中に溜まったエネルギーを外に出していくっていう意味では、ライブはそれに向いている場面だと思うんで。
●98年にライブが行われるとなると4年振りになるんですよね。
氷室:4年振りか…そんなになるんだっけ? そうなんだね(笑)。
●氷室さん自身は、そんなにたっているという感覚がないんですね。
氷室:うん。その間ずっと制作に入ってるから…、結構時間がたつの早いよね。
●では、ライブまでの間は、どういう予定があるんですか。
氷室:その間は、今回のプロモーションが終わったら、さっき言ったシングルの続きを向こうに戻って作り終えて、で、6月くらいまでにミニアルバムか何かを作りたいなと思ってる。だからその作業に早速入ります。曲も何曲かは、ベーシックっていうか、モチーフになる形のものはできてるんで。それをやって。
●98年は必ずライブをしてください(笑)。
氷室:はい、します(笑)。